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仙台地方裁判所 昭和51年(ワ)1204号 判決

原告 佐々木勝衛

右訴訟代理人弁護士 浅野公道

右訴訟復代理人弁護士 藤田紀子

被告 上村新之丞

右訴訟代理人弁護士 小野由可理

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し金五〇〇万円及びこれに対する昭和四五年五月二八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  原告の請求原因

1  事故の発生

原告は昭和四五年五月二八日午後九時一五分頃、仙台市南小泉字藤南二〇の二地先の国道四号線バイパスを横断中、深沼交差点方面から六丁目交差点方面(苦竹方面)に向かい右バイパスを時速約五五キロメートルで他車を追い越し進行中の被告の運転する被告所有の小型貨物自動車(車輛番号宮四(ほ)九三四七・以下被告車と称する。)に衝突され、因って原告は入院四四日、通院四一七日(実日数五四日)を要する頭部外傷、頭部挫創、脳挫傷、右下肢裂傷の傷害を受けた。

2  被告の責任原因

被告は被告車の所有者で自己のためにこれを運行の用に供していた者であるから、被告は被告車の運行供用者として自動車損害賠償保障法第三条に基づき本件事故によって生じた原告の損害を賠償すべき義務がある。

3  原告の損害

(1) 休業損害 金一七万一、〇〇〇円

原告は事故発生当時、仙台食糧販売協同組合の従業員として勤務し、一か月平均五万七、〇〇〇円也の給与を得ていたが、本件事故により入院と静養のため九〇日間右組合を欠勤し、その間の休業損害は金一七万一、〇〇〇円になる。

(2) 医療費 金四二万五、八一八円

原告は本件事故により仙台市立病院に入院加療して金四二万五、八一八円を要した。

(3) 付添看護費 金一二万二、〇〇〇円

原告入院中、医師の要請により付添看護のため原告の実母と兄が三四日間交替で付添看護をなし、その後の一〇日間も実母が付添看護をなしたので、前者については一日当り三、〇〇〇円、後者については一日当り二、〇〇〇円として、付添看護費用の合計は金一二万二、〇〇〇円となる。

(4) 入院諸雑費 金八、八〇〇円

一日につき金二〇〇円が相当であるから、入院日数四四日に乗じて合計八、八〇〇円となる。

(5) 通院交通費 金二万七、〇〇〇円

原告が自宅から仙台市立病院まで通院往復するには一回金五〇〇円を要するので、それに通院実日数五四日を乗じると合計金二万七、〇〇〇円となる。

(6) 慰謝料 金五〇〇万円

原告は被告の一方的過失である本件事故により頭部外傷を受け、知能指数も七三まで低下し、性格異常をきたしたうえ、妻直子と離婚、子供達とも生別れとなる等本件事故発生以前に比較しその生活は著しく不幸せとなっている。現在後遺症の認定を受けようとしているが、本件事故による原告の精神的打撃ははかり知れないものがあり、後遺症による逸失利益の算定が未確定な現在右逸失利益を含めた精神的打撃を金銭的に評価すれば金五〇〇万円が相当である。

(7) 弁護士費用 金五〇万円

4  損害の填補

原告は被告より治療費として金四二万五、八一八円、見舞金として金二〇万円、合計金六二万五、八一八円の支払を受けた。

5  よって原告は被告に対し不法行為に基づく損害賠償として金六二五万四、六一八円の請求権を有するところ、損害の填補合計金六二万五、八一八円を控除した残金五六二万八、八〇〇円の内金である金五〇〇万円及びこれに対する本件事故発生日である昭和四五年五月二八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  右請求原因に対する被告の認否並びに主張

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1の事実中、原告主張の日時場所において原告主張のような本件事故が発生し、原告が負傷したことは認めるが、傷害の程度、入通院の期間等は不知。

(二) 同2の事実は認める。

(三) 同3の事実は不知。

(四) 同4の事実は認める。

2  被告の主張

(一) 免責

(1) 本件事故の状況は次のとおりである。

別紙見取図のとおり、被告は小型貨物自動車を運転して時速五五ないし六〇キロメートルの速度で国道四号線バイパス北行線の追越車線を進行し、走行車線点附近進行する車を追い抜いて①点附近に差しかった際、突然中央分離帯の切れ目から自転車を引いて進路前方に出て横断しようとする原告を約二〇メートル前方の点附近に発見し、危険を感じて直ちにハンドルを左に切ると共に急ブレーキをふんだが間に合わず、②、点で自車前部右側を右自転車に衝突させ、原告は転倒負傷し、被告車は更に走行車線を走って来た車と③、点で衝突し、④点で停車したものである。

(2) 本件事故現場であるバイパスは、昼夜車両が連続走行していて、横断歩道以外のところで横断する人は皆無であるのに、原告は酒に酔い灯火もつけない自転車を引いて中央分離帯の切れ目から被告車の進路前方に進み出たというものであり、被告は中央分離帯の植込のため原告の姿は点に来るまで全く見えず、約二〇メートルの近距離で点に出てきた原告を初めて発見し、直ちに急制動の措置をとったが間に合わなかったものである。

(3) 右のように本件事故は原告の一方的過失によって起きたものであって被告に過失はなく、被告車に構造上の欠陥又は機能上の障害はなかったのであるから、被告は自動車損害賠償保障法三条但書により損害賠償の責任を負わないものである。

(二) 消滅時効

(1) 仮りに原告の被告に対する損害賠償請求権が発生するとしても、本件事故は昭和四五年五月二八日に発生したものであり、原告は直ちに損害及び加害者を知ったものであるところ、本件訴を提起したのは昭和五一年一二月一三日であり、被告の原告に対する最後の損害金支払日である昭和四七年四月一四日から起算しても既に三年を経過しているから、右債権は時効により消滅したものである。

(2) なお被告は昭和四八年一二月一三日に確認証を作成しているが、右確認証は、昭和四五年五月二八日に被告が事故を起こして原告を負傷させた事実と右交通事故による損害賠償については責任をもって処置する旨記載したに止まるものであり、その趣旨は原告より治療費ないし休業損害等の損害金の支払の請求があった場合は被告が責任をもって処置することを確認したにすぎず、原告は後記の昭和四七年四月一四日の治療費金九万二、五八二円の支払後は被告に対し三年間以上も何ら損害金支払の請求をしていなかったのであるから、これをもって時効中断事由たる「承認」に該るとすることはできないものである。

(三) 過失相殺

仮りに被告に損害賠償の義務があるとしても、本件事故における原告の過失は極めて大きいから、大巾な過失相殺がなさるべきである。

そして過失相殺をすれば、原告の請求し得る金額は、被告の支払った次の合計金七九万八、四〇〇円に達しないのであるから、原告の請求は棄却さるべきである。

(四) なお被告は原告に対し次のとおり合計金七九万八、四〇〇円を支払っているものである。

(1) 昭和四五年六月一日 金二万円(見舞金)

(2) 同四六年七月二一日 金三九万〇、九三七円(治療費)

(3) 同年一〇月一五日 金六万円(見舞金)

(4) 同年同月一八日 金三万四、八八一円(治療費)

(5) 同四七年二月二二日 金二〇万円(見舞金)

(6) 同年四月一四日 金九万二、五八二円(治療費)

第三証拠《省略》

理由

一  昭和四五年五月二八日午後九時一五分頃、仙台市南小泉字藤南二〇の二地先の国道四号線バイパスの道路上において、右バイパスを横断中の原告と同バイパスを深沼交差点方面から六丁目交差点方面(苦竹方面)に進行中の被告運転の被告車とが衝突する交通事故が発生し、原告が負傷したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、原告は右事故により頭部外傷、頭部挫創、脳挫傷、右下肢裂傷の傷害をうけたものであることが認められる。

二  しかして被告車が被告の所有で、被告がその運行供用者であることは当事者間に争いがないところ、被告は本件事故は原告の一方的過失によるもので被告に過失はなく、かつ被告車に構造上の欠陥又は機能上の障害はないから、被告に損害賠償の責任はない旨主張するので、本件事故の状況、原因等についてみるに、《証拠省略》を綜合すると、

(1)  本件事故現場は国道四五号線バイパスの下り車線の道路上であって、事故現場附近の右道路は直線の平坦な舗装をしてある道路であること、

(2)  右道路は別紙見取図のように上下各二車線で、上下線の中央に高さ約三~四〇センチの分離帯があり、その分離帯の上に高さ約六〇センチ位の植込みの木があり、右道路の制限時速は六〇キロメートルであったこと、

(3)  別紙見取図の六丁目交差点と深沼交差点との距離は約一粁位で、右両交差点にカクテル光線の照明がある外は路上に照明はなく、本件事故現場は深沼交差点から約八〇〇米位北方の場所であること、

(4)  原告は事故当日、勤務先の仙台食糧販売組合で仕事が終った後、午後六時過頃から午後七時半頃まで同僚二人とビール一本と酒六合位を飲んだ後、事故現場附近のドライブインで更に一緒にビール二、三本を飲み、午後九時頃右ドライブインを出たこと、

(5)  原告は右ドライブインを出た後同僚と別れ、自転車を引いて右バイパスの横断歩道でもない場所を東から西に横断を始め、別紙見取図のように中央分離帯の切れ目を通って下り車線をも横断しようとしたが、進行して来る車に充分注意しなかったのか或いは前照灯を灯けて進行して来る被告車の目測を誤ったのか、進行して来た被告車の直前を横断する形で横断進行したため、別紙見取図の地点で両者衝突したものであること、

(6)  一方被告は被告車を運転し、深沼交差点において赤信号に従い停止した後出発し、六丁目交差点方面に向って進行し、走行車線を進行している前車を追越すべく追越車線に入って追越し、追越車線を時速五五キロ位で進行していたところ、右手の中央分離帯の切れ目から自転車を曳いて横断しようと出て来た原告を約二〇米位の直前において認め、急制動をかけると共にハンドルを左に切ったが間に合わず、右のように見取図の地点で衝突したものであること、

が認められ(る。)《証拠判断省略》

以上認定の事実に照して本件事故の原因を考えるに、本件事故の原因は、原告が酒を飲んで、横断歩道でもない場所を、しかも進行して来る被告車の直前を安全確認もしないで横断進行したことにその原因があるのであって、本件のようなバイパスにおいて、被告車に中央分離帯の切れ目から出てくる人があることまで常に予想して進行すべき注意義務があるとは考えられないし、他に被告に過失の責を問う点は存しないから、本件事故の発生は原告の過失に因るものであって、被告に過失はないものというべく、《証拠省略》に照らすと、被告車に本件事故の発生に関係ある構造上の欠陥や機能の障害はなかったものであることが認められるから、被告は原告に対し本件事故による原告の損害につきその損害賠償の責任はないものというべきである。

三  よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくこれを棄却し、民事訴訟法八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤和男)

〈以下省略〉

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